大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和47年(行ウ)33号 判決

原告

川端朗

右法定代理人親権者父

川端武朗

同母

川端夏子

右訴訟代理人

寺本勤

被告

東京都板橋都税事務所長

右指定代理人

池田良賢

外一名

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一、原告

1  被告が昭和四五年九月一〇日原告に対してした別紙目録記載の土地の取得に対する不動産取得税賦課決定のうち、税額金五六〇、二二〇円をこえる部分を取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二、被告

主文同旨の判決

第二  原告の請求原因

一、原告は、昭和四五年三月一四日別紙目録記載の土地(以下「本件土地」という。)を贈与により取得したところ、被告は、同年九月一〇日原告に対し、本件土地の取得に対する不動産取得税金二、五一四、九九〇円賦課する旨の決定(以下「本件処分」という。)をした。

二、しかしながら、本件処分には、課税標準を過大に認定した違法があるから、同処分のうち、正当な課税標準により算出される税額金五六〇、二二〇円をこえる部分の取消しを求める。

第三  被告の答弁及び主張

一、原告の請求原因(第二)一の事実は認めるが、二の主張は争う。

二、本件処分は、次のとおり適法にされたものである。

すなわち、不動産取得税の課税標準は、不動産を取得した時における不動産の価格であり、かつ、固定資産課税台帳に固定資産の価格が登録されている不動産については、当該価格により当該不動産に係る不動産取得税の課税標準となるべき価格を決定するものとされている(地方税法(以下「法」という。)第七三条の一三第一項及び第七三条の二一第一項本文)ところ、本件土地については、昭和四五年に決定され固定資産課税台帳に登録された固定資産の価格(以下「昭和四五年度の登録価格」という。)は金八三、八三三、六一〇円であり、右価格は昭和四五年二月末日までに登録されているから、被告は、右価格により原告の本件土地取得の時における価格を決定し、これに基づき原告に対し不動産取得税金二、五一四、九九〇円を賦課したものである。

第四  被告の主張に対する原告の反論

一、被告主張の第三の二の事実のうち、本件処分は昭和四五年度の登録価格を課税標準としてされたこと、右価格は昭和四五年二月末日までに登録されていたこと、右登録価格及びそれを基礎として算出した場合の不動産取得税の税額が被告主張のとおりであることは認める。

二、本件処分における不動産取得税の課税標準は、昭和四四年に決定され固定資産課税台帳に登録された本件土地の価格(以下「昭和四四年度の登録価格」という。)金一八、六七四、〇〇〇円によるべきであるから、その税額は金五六〇、二二〇円になるべきである。すなわち、

1  固定資産課税台帳は、毎年三月一日から同月二〇日までの間関係者の縦覧に供され(法第四一五条第一項本文)その登録価格に不服がある場合においては、縦覧期間の末日後一〇日までの間において、審査の申出をすることができるとされている(法第四三二条第一項本文)。したがつて、毎年右の申出期間が過ぎた日である四月一日にその年度の登録価格が確定するから、昭和四四年度の登録価格は、昭和四四年四月一日から昭和四五年三月三一日までの間に取得された不動産について不動産取得税の課税標準となるべき価格であると解すべきである。けだし、不動産取得税については、固定資産税に関する法第四二〇条のごとき、価格の修正に基づく賦課額の更正についての規定を欠いているから、右のように解しなければ、固定資産課税台帳の縦覧、不服申出の制度は無意味となるからである。

本件土地は、昭和四五年三月一四日に取得されたものであるから、昭和四四年度の登録価格が課税標準として適用されるべきである。

2  もし被告主張のように解すると、固定資産課税台帳にまだ新年度の価格が登録されていない間に取得された不動産については、新年度の登録価格による固定資産課税台帳登録証明書(以下「評価証明書」という。)の交付をうけることも、新年度の登録価格を登録した固定資産課税台帳を閲覧することもできないから、納税義務者としては予測できない課税標準により課税が行われることになり、租税法律主義及び不利益不遡及の原則に反することとなる。

第五  原告の主張に対する被告の反論

一、本件土地の昭和四四年度の登録価格及びそれを基礎として算出した場合の不動産取得税の税額が原告主張のとおりであることは認めるが、その余の主張は争う。

二、次の理由により、原告の主張は理由がない。

1  原告が本件土地を取得した時には、すでに、昭和四五年度の登録価格が登録されていたのであるから、右価格を課税標準とすべきは当然であり、法第七三条の二一第一項の文理上も、単に「固定資産課税台帳に固定資産の価格が登録されている不動産は……」とのみ規定しており、「審査の申出の期間を経過した後は」などの限定が加えられていないから、原告主張のように解することはできない。

のみならず、不動産取得税についても、固定資産の価格の修正に基づく賦課額の更正をすることは可能である。すなわち、法第四一九条第一項第二項及び第四一七条第一項に規定する事由に該当する場合には、すでにされた不動産取得税の課税標準の決定又は賦課に瑕疵があるのであるから、特に明文の規定がなくとも、従前の価格の決定を修正し、すでにされた賦課決定については法第二〇条の九の二の規定により賦課額の更正をすることができるというべきである。したがつて、賦課額の更正についての規定を欠いていることを前提とする原告の主張は理由がない。

2  固定資産課税台帳に新年度の価格が登録されていない時期に取得された不動産は、法第七三条の二一第二項の規定にいう価格が登録されていない不動産である。そして、この時期に評価証明書の交付の請求があれば、道府県知事は、直ちに、固定資産評価基準によつて、当該不動産に係る不動産取得税の課税標準となるべき価格を決定したうえ、評価証明書を交付すれば足る。したがつて、評価証明書の交付ができないことを前提とする原告の主張は理由がない。

3  仮に、原告主張のように、本件処分においては昭和四五年度の登録価格を課税標準として適用し得ず、昭和四四年度の価格が登録された価格に当るとしても、昭和四五年度は、いわゆる基準年度(法第三四一条第六号)であつて、基準年度については固定資産の価格の評価替えが予定されているのであるから、昭和四四年度の価格は適正な時価を示さないことが明らかであり、当該登録価格により難い特別の事情がある場合に当たる(法第七三条の二一第一項ただし書)。したがつて、本件の場合、知事が固定資産評価基準によつて課税標準となるべき価格を決定すべきである(同条第二項)ところ、知事が固定資産評価基準によつて決定する課税標準となるべき価格は、昭和四五年度の登録価格と一致すべきものであるから、結局、本件処分に原告主張の誤りはないことになるといわなければならない。

第六  証拠関係〈略〉

理由

一原告の請求原因(第二)一の事実及び本件処分が昭和四五年二月末日までに固定資産課税台帳に登録されていた本件上地の昭和四五年度の登録価格金八三、八三三、六一〇円を課税標準として賦課されたものであることは、当事者間に争いがない。

二原告は、本件処分は、昭和四四年度の登録価格を課税標準とすべきであるのに、昭和四五年度の登録価格を課税標準とした違法があると主張するので、以下、不動産取得税の課税標準は何か、その課税標準となるべき固定資産の価格の適用時期の点について検討することとする。

(不動産取得税の課税標準)

1  不動産取得税の課税標準は、不動産を取得した時期における不動産の価格(法第七三条の一三第一項)、すなわち、取得時における適正な時価(法第七三条第五号)とされているが、不動産取得税の課税対象である不動産は、通常、固定資産税の課税対象となつているので、不動産評価の統一及び徴税事務の簡素合理化を図るため、固定資産課税台帳に固定資産の価格が登録されている不動産については、当該価格により当該不動産に係る不動産取得税の課税標準となるべき価格を決定するものとし(法第七三条の二一第一項本文)、固定資産課税台帳に固定資産の価格が登録されていない不動産又は特別の事情により当該固定資産の価格により難い不動産については、道府県知事が自治大臣の定める固定資産評価基準によつて、当該不動産に係る不動産取得税の課税標準となるべき価格を決定するものとされている(同条第二項)。

ところで、固定資産の登録の手続は、専ら固定資産税に関する法の規定によつているのであつて、固定資産税の賦課期日は、当該年度の初日の属する年の一月一日であり(法第三五九条)、土地又は家屋に対して課する固定資産税の課税標準は、当該土地又は家屋の基準年度に係る賦課期日における価格(第二年度、第三年度については、地目の変換、家屋の改築等の特別の事情があるため、基準年度の固定資産税の課税標準の基礎となつた価格によることが不適当である等の場合においては、当該土地又は家屋に類似する土地又は家屋の基準年度に係る賦課期日における価格に比準する価格)で固定資産課税台帳に登録されたものをいう(法第三四九条)から、固定資産課税台帳に登録される価格は、当該固定資産の基準年度に係る賦課期日における価格又は当該固定資産に類似する固定資産の基準年度に係る賦課期日における価格に比準する価格を評価し(法第三四九条・第四〇九条)、市町村長は毎年二月末日までにこれを決定し(法第四一〇条)、決定したときは直ちに固定資産課税台帳にこれを登録しなければならない(法第四一一条)こととされているのである。

このように、不動産取得税の課税標準は、固定資産税における固定資産の価格の登録制度に依拠しており、かつ固定資産税の課税標準となる固定資産課税台帳に登録された価格は、基準年度に係る賦課期日における、当該固定資産の価格又は当該固定資産に類似する固定資産の価格に比準する価格とされている以上、不動産取得税の関係においても、課税標準となるべき不動産価格の決定に関し「固定資産の価格が登録されている不動産」(法第七三条の二一第一項)とは、当該不動産取得時において、固定資産税の基準年度に係る賦課期日における、当該固定資産の価格又は当該固定資産に類似する固定資産の価格に比準する価格(それらの価格が法第四一七条、第四一九条又は第四三五条の規定に基づき修正されたときは、修正後の価格)が登録されている不動産を指し、「固定資産の価格が登録されていない不動産」(同条第二項)には、不動産取得時において右のごとき固定資産の価格が登録されていない不動産をも含むと解するのが相当である。したがつて、基準年度に不動産の取得があつた場合において、当該不動産の前年の価格が登録されているにすなぎいときは、固定資産の価格が登録されていないものとして、知事が法第七三条の二一第二項の規定により課税標準となるべき価格を決定することとなるのである。右のような解釈は、不動産取得税の課税標準が不動産を取得した時における不動産の価格(適正な時価)であることを原則とすることから、取得時の価格により近い価格を課税標準とすることを可能とし、税負担の適正公平に適うこととなる点においても相当である。

(課税標準となるべき固定資産の価格の適用時期)

2 次に、固定資産課税台帳に登録されている固定資産の価格は、いつから課税標準として適用されるかであるが、法第七三条の二一第一項の文理からみても、また固定資産課税台帳の登録事項に対し縦覧期間の初日(二月一日)から審査の申出を認めていることからみても(法第四三二条)、固定資産の価格が市町村長により内部的に決定され、かつ、登録により対外的に表示された時、すなわち、価格の決定に関し公証行為たる登録が完了した時から課税標準となるべき固定資産の価格として適用されると解すべきである。

3 この点について、原告は、不動産取得税については、賦課額の更正の規定がないから、登録事項についての審査申出期間が過ぎ、その年度の登録価格が確定する四月一日以降に取得された不動産についてのみ、その年度の登録価格は課税標準となると主張する。しかしながら、誤つた課税処分が行われた場合、処分庁が後にその処分を是正しうることは当然であり、あえて明文の規定をまつまでもないから、賦課額の更正の規定のないことを根拠とする原告の主張は理由がない。

4 次に原告は、もし被告の主張するように解すると、固定資産課税台張にまだ固定資産の価格が登録されていない間に取得された不動産については、その課税標準を予測することができないから、租税法律主義及び不利益不遡及の原則に反することになると主張する。しかし、前記のとおり、不動産取得税の課税標準は不動産取得時における当該不動産の適正な時価と法定されており(法第七三条の一三第一項・第七三条第五号)、その額は客観的には明らかであるというべきであるし、当該不動産の価格が固定資産課税台帳に登録されていなければ、前記のように知事が法第七三条の二一第二項の規定により決定するわけであるから、租税法律主義及び不利益不遡及の原則に反するという原告の非難は当たらないといわなければならない。

三そうすると、本件土地については、原告が本件土地を取得する前である昭和四五年二月末日までに昭和四五年度の登録価格が登録されていたこと及びその価格が金八三、八三三、六一〇円であることは当事者間に争いがないから、被告が右の価格を課税標準として本件処分をしたことに違法の点はないといわなければならない。

四よつて、原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(杉山克彦 時岡泰 青柳馨)

〈目録省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例